慶應義塾大学医学部整形外科学教室の中村雅也教授、八木満専任講師、山之内健人助教らの研究グループは、神奈川県立産業技術総合研究所の大西公平研究顧問(慶應義塾大学新川崎先端研究教育連携スクエア特任教授)、下野誠通グループリーダー(横浜国立大学工学研究院准教授)、日本メドトロニック株式会社、モーションリブ株式会社らとの共同研究において、リアルハプティクス技術を応用した脊椎手術用ドリルを開発し、その有用性を実証しました。
リアルハプティクスとは、人間がロボットを操作して現実の物体に接触した際の力や動きをデータ化し、リアルタイムで双方向に伝送することで、感触を再現する技術です。動作や感触をデータ化することで、力触覚機能を機械に実装し、力加減を調整したり、力触覚を長距離伝達することが可能となります。医学分野のみならず、さまざまな産業分野において、多くの作業が人の手によるいわゆる「職人技」で行われています。そのような人手による感触を重視する作業において、リアルハプティクスの応用が進んでいます。
整形外科疾患の中でも脊椎領域の手術においては、脊髄神経や脈管系の近くで骨ドリルを使用します。この操作は傷つきやすい組織の周辺で硬い組織を削掘するという手技の性質上、極めて難易度の高い操作で、手術者には極度のストレス下で正確な作業が求められます。骨ドリルにリアルハプティクス技術を実装することで、従来よりも安全性の高い手術方法を確立する事ができると考え、本研究がスタートしました。骨ドリルにリアルハプティクス技術を実装した新たな装置(ハプティックドリル)を開発し、脊椎手術における有用性を検証した結果、ハプティックドリルを使用することで、経験の浅い外科医でも正確に安全な手術が可能となることが客観的に検証できました。
本研究成果は2023年1月12日(米国東部時間)に Scientific Reports に掲載されました。