慶應義塾大学理工学部物理情報工学科の牧英之教授、米国Rice大学電気・コンピューター学科のJunichiro Kono教授らの研究グループは、一次元のナノ材料であるカーボンナノチューブが高密度に配列・積層したカーボンナノチューブ配向膜を用いて、広波長帯域の偏光をダイレクトに発生させる電気駆動の熱光源の開発に成功しました。「熱光源からは非偏光しか得られない」といった従来の常識を覆す新しい光源であり、偏光を用いた様々な分野への応用が期待されます。
偏光を用いた技術は、分析・センシング・光デバイスなどの多くの分野で重要であり、基礎研究から産業界まで広く使われています。現在、偏光を直接発生させる光源としては、レーザー光源が用いられていますが、原理上、特定の単一波長の光しか得られず、その発光スペクトルは極めて狭いものとなっています。一方、非常に広い発光スペクトルを有する光源として、白熱電球等で知られる熱光源があり、主に可視~赤外の広い波長領域での光源として現在も広く利用されています。しかし、従来の熱光源は、非偏光の発光しか得られず直接偏光を発生させることができないため、偏光を利用するには、偏光板を組み込む必要がありました。
今回、新たな熱光源材料として、カーボンナノチューブが最密充填した高密度のカーボンナノチューブ配向膜を用いた発光素子を開発し、可視~赤外の広波長帯域で発光する偏光した熱光源を実現しました。本成果は、直径1㎝以上にもなるマクロな材料から、「偏光」した熱放射をダイレクトに発生させることを実演したものです。また、カーボンナノチューブ配向膜の電気的・熱的な異方性を利用することで、局所発光などの発光特性の制御にも成功しました。熱光源から得られる光が通常「非偏光」であることは、理科教育でも紹介されるような有名な物理現象ですが、本成果は、この従来の常識を覆す新しい熱光源であることを示しています。電気駆動の光源であることに加えて、マイクロサイズに微細加工したチップ上の偏光熱光源となることから、分析・センシング・光デバイスなどの様々な分野で、全く新しい偏光の応用を開拓すると期待されます。
本研究成果は、2022年3月7日に米国化学会(ACS)のACS Materials Lettersオンライン版で公開されました。