慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)の佐藤俊朗教授らの研究グループは、患者由来オルガノイドを用いた新規薬剤スクリーニングシステムを開発しました。
本研究グループは、従来のオルガノイド培養技術に改変を加えることで正常大腸オルガノイドの短期間での大量培養を実現し、患者由来大腸がんオルガノイドの大規模薬剤スクリーニングに正常組織を組み込むことに成功しました。この創薬プラットフォームを用いることで、個々のがんに効果を示す抗がん剤だけでなく、正常組織に対する副作用が少なく、がんに対して特異的に効果を示すような薬剤を探索することが可能になりました。
佐藤教授らは患者組織を「ミニ臓器」として培養皿上で永続的に培養するオルガノイド技術を開発し、これまで大腸がん、胃がんをはじめとした多くのがんのオルガノイドバンクを構築してきました。従来のがん創薬で主に用いられるがん細胞株には、臨床腫瘍の性質や薬剤への反応を必ずしも反映していないという難点がありましたが、患者由来がんオルガノイドは元の患者がん組織の特徴の多くを培養中も保持しており、近年では薬剤試験に応用され始めています。しかし、従来のオルガノイド培養技術では正常組織を大量かつ効率的に培養することができなかったため、正常組織オルガノイドを用いた薬剤スクリーニングは不可能でした。
今回、佐藤教授らは培養方法を改良することで正常大腸オルガノイドの培養効率を飛躍的に改善することに成功し、正常組織、がんを問わずに薬剤スクリーニングを可能にする創薬プラットフォームを開発しました。このプラットフォームを用い、正常大腸オルガノイド6ラインおよび患者由来がんオルガノイド20ラインに対して、56薬剤の網羅的スクリーニングを実施、高精度な治療効果データを取得しました。
その結果、正常大腸組織への影響は少なく、がんに対して特異的に効果を示す薬剤や、大腸がんの一定のタイプに強い効果を発揮する抗がん剤を同定しました。この技術は大腸のみならず他の臓器にも幅広く応用可能であり、今後の新規創薬の発展や個別化治療の推進に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2022年3月10日(英国時間)に国際科学誌『Nature Chemical Biology』オンライン版に掲載されました。