慶應義塾大学医学部解剖学教室の仲嶋一範教授、愛知県医療療育総合センター発達障害研究所の田畑秀典室長(研究開始時は慶應義塾大学医学部解剖学教室専任講師)らの研究グループは、生理学研究所の鍋倉淳一所長らと共同で、脳を構成する主要な細胞であるアストロサイトが胎児や新生児の脳内でどのように移動して持ち場につくのかを、マウスを用いて明らかにしました。
哺乳類の脳には神経細胞のみならず、それを上回る数のグリア細胞が存在し、神経細胞の活動をバックアップします。中でもアストロサイトは主要なグリア細胞の一種であり、発生・発達期の神経ネットワークの形成等に重要な役割を果たします。しかしながら、アストロサイトがどのように発生し、脳内に広く分布できるのかはほとんどわかっていませんでした。今回の研究では、脳の深部で生まれたアストロサイト前駆細胞が、ほぼランダムに動き回る移動と血管をガイドとした移動の2種類を使い分けながら、神経細胞が存在する領域に到達して満遍なく分布することを明らかにし、それを支える分子機構を見出しました。こうしたアストロサイトの発生機構が乱されると、神経ネットワーク形成等が阻害される可能性が考えられます。さまざまな精神神経疾患の背景に発生期の障害が存在する可能性が近年注目されており、今回の研究により、それらの疾患の新たな病態理解が進むことが期待されます。
この研究成果は、2022年11月2日(英国時間)に Nature Communications (オンライン版)に掲載されるとともに、特に重要な論文としてEditors' Highlightsに選ばれました。