理化学研究所(理研)生命医科学研究センターメタボローム研究チームの内野春希大学院生リサーチ・アソシエイト(慶應義塾大学大学院薬学研究科博士課程4年)、津川裕司客員研究員(東京農工大学グローバルイノベーション研究院テニュアトラック准教授)、有田誠チームリーダー(慶應義塾大学薬学部・薬学研究科教授)らの共同研究チームは、脂質の生理機能を理解するうえで重要な炭素間二重結合(C=C)位置をアンバイアスかつ網羅的に決定できる新しいノンターゲットリピドミクス技術を開発しました。
本研究成果は、従来法では解析が困難であったオメガ3、オメガ6などに代表される脂肪酸側鎖情報を明確に識別するものであり、脂質の持つ構造多様性の解明、さらには脂質代謝の異常を伴う病態メカニズムの理解に貢献すると期待できます。
今回、共同研究チームは、質量分析によるC=C位置の解析を可能にするため、C=C位置に特異的な解離を引き起こすフラグメンテーション法「Oxygen Attachment Dissociation: OAD」を利用した解析技術を確立しました。次に、この技術を用いて得られた85種の脂質標準品のタンデム質量分析(MS/MS)のデータ(OAD-MS/MSスペクトル)を詳細に解析し、その解離機構をルール化することで、複雑なOAD-MS/MSデータを解析するソフトウェア「MS-RIDD」を開発しました。この技術をヒトやマウス組織等の実際の生体試料への脂質解析へ適応したところ、合計648分子種のC=C位置を含めた脂質構造の決定に成功しました。これらの脂質構造には、従来法では決定できなかったC=C位置が多数含まれており、本開発技術の有効性が示されました。
本研究は、科学雑誌『Communications Chemistry』オンライン版(12月19日付)に掲載されました。