慶應義塾大学薬学部とカイゲンファーマ株式会社(本社:大阪市中央区、社長:中桐信夫、以下カイゲンファーマ)は、海藻に含まれる食物繊維アルギン酸ナトリウム(以下、SA)が腸内細菌を介してメタボリックシンドローム(以下、MS)を抑制することを明らかにしました。本研究は慶應義塾大学薬学部薬学科6年の江島竜太(えじま りゅうた)、同薬学部の秋山雅博(あきやま まさひろ)特任講師、金倫基(きむ ゆんぎ)教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣(ふくだ しんじ)特任教授、カイゲンファーマ株式会社の佐藤弘規(さとう ひろき)を中心とする研究グループの成果です。
SAは、コンブやワカメ、ヒジキ、モズクなどの褐藻類に含まれている多糖類です。SAは、「増粘剤」「ゲル化剤」など、食品の品質改良材として広く用いられていることに加えて、水溶性食物繊維としても用いられています。また、肥満モデル動物を用いた試験において、SAが体重増加を抑える、コレステロールを減少させるなど、MSに対する効果も報告されています。さらに、一部の腸内細菌がSAを栄養源として利用できることも明らかとなっています。近年、腸内細菌は我々の代謝機能に影響を及ぼすことが知られていますが、SAのMS抑制作用における腸内細菌の寄与については不明なままでした。
本研究では、抗菌剤で腸内細菌叢を撹乱させたマウスを使用し、オミックス解析を行うことにより、腸内細菌がSAによるMS抑制効果に必須であることを明らかにしました。また、高脂肪食を与えたマウスにSAを摂取させると、Bacteroides属菌が著明に増加することが分かりました。食事によるMSの発症に腸管の炎症性マクロファージ(以下、MΦ)が深く関わっていることが知られていたため、次に、SA摂取後の腸管内MΦの量的・質的変化を観察しました。その結果、高脂肪食負荷マウスにSAを与えると、大腸内の炎症性MΦの割合が低下し、逆に抗炎症性MΦの割合が上昇することが分かりました。SAによるこの炎症性MΦの割合低下は、Bacteroides属菌を含む腸内細菌を除去する抗菌剤投与により見られなくなりました。さらに、腸内メタボローム解析により、SAで増加したBacteroides属菌と正の相関を示す代謝物が同定され、その中にはニコチン酸、パントテン酸、リボフラビン、ピリドキサールといったビタミンB群やアミノ酸誘導体、核酸などが含まれていました。
以上のことから、SAは腸内細菌を介して腸管の炎症性MΦを減少させ、MSを抑制することが明らかになりました。これまでSAのMSへの効果については、食物中の脂質を吸着し、体内へ吸収されにくくするなどの物理的作用が考えられていました。本研究成果により、SAが腸内細菌叢の組成や代謝物を変化させることにより腸管内の炎症を抑え、MSを抑制することが新たに分かりました。今後、「腸内環境を健全に保つことでMSを予防し得る」という概念が広く浸透していくとともに、MSの予防・改善を目的として腸内環境を変化させる食品・医薬品の開発が期待されます。本研究成果は、2021年8月16日に国際学術誌『Nutrients』(電子版)に掲載されました。