慶應義塾大学医学部薬理学教室の鈴木将貴特任助教、笹部潤平専任講師、安井正人教授らの研究グループは、同内科学(消化器)教室の金井隆典教授、米国ハーバード大学メディカルスクールのMatthew Waldor教授、公益財団法人実験動物中央研究所の伊藤守所長、九州大学大学院薬学研究院の浜瀬健司教授らとの共同研究にて、腸内細菌由来のD-アミノ酸の代謝が宿主の腸管免疫を制御していることを発見しました。
哺乳類の消化管に生息する腸内細菌は様々な代謝物を作っています。我々ヒトを含めた哺乳類は、このような細菌の代謝物や断片構造を認識し、適度な免疫反応を起こしながら、細菌とうまくバランスをとって共生しています。興味深いことに、細菌は哺乳類がつくることができない代謝物であるD-アミノ酸を利用して、自身の外壁となる構造を作り上げています。しかし、この細菌に特徴的なD-アミノ酸が哺乳類の免疫にどう影響を与えるのか、さらに哺乳類と細菌との共生関係にどのような意味があるのか分かっていませんでした。
今回、研究グループはD-アミノ酸だけを認識して分解する哺乳類の酵素が、免疫グロブリンA(IgA)の量と質を制御して、細菌との共生を調節していることを発見しました。
IgAは粘膜バリアを形成する主要な免疫グロブリンで、腸内細菌との共生関係を調節し、病原性細菌やウイルスの感染から生体を守る役割を持っています。哺乳類のD-アミノ酸代謝酵素が機能を失うと、腸内フローラに乱れが生じるとともに、D-アミノ酸が増加します。これに反応して、免疫を担当するマクロファージとBリンパ球が活性化してIgAの産生を増やし、腸内フローラに対して過剰に反応してしまうことがわかりました。つまり、宿主であるヒトは腸内細菌の合成するD-アミノ酸を認識することで免疫を調節し、細菌との共生関係を維持していることがわかりました。ヒトと細菌との共生関係の乱れは、免疫・代謝・神経系など様々な疾患に関与することが明らかになりつつあり、本研究が発展することで、共生細菌の乱れが引き起こす病気の理解や新しい治療標的の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2021年3月3日(米国東部時間)に国際総合学術誌である『Science Advances』(オンライン版)に掲載されました。