東京工業大学 学術国際情報センターの青木尊之教授を研究代表者とする東工大・九州大・慶應大の共同研究チームは、令和2年度に採択されたHPCIシステム利用研究課題「回転するハイスピード野球ボールの空力解析」を同センターのスパコンTSUBAME3.0にて、野球ボールを縫い目の回転まで詳細に計算する数値流体シミュレーションを実施した。その結果、ツーシーム回転のボールでは、縫い目のある範囲の角度において「負のマグヌス効果」が発生し、低速回転のツーシームであるフォークボールを落下させる大きな要因となることを初めて見出した。時速151kmの球速と1,100rpm(1分間の回転数)のツーシームとフォーシームを比較し、同じ球速と回転数にもかかわらず縫い目の違いだけで打者の手元での落差が19cmも違うことが明らかになった。
フォークボールはバックスピンの回転をしているため、マグヌス効果により浮き上がる軌道になるはずであるが、ほとんど浮き上がらず放物線に近い軌道を取ることが知られており、その理由は謎のままであった。
滑らかな球に対しては、実測でもシミュレーションでも特定の条件が揃ったときに「負のマグヌス効果」という下向きに働く力が確認されていたが、縫い目のある野球ボールでは「ない」と思われてきた。また、高速度カメラによる計測では軌道や球速の変化を測定することはできるが、ボールのどの部分にどのような空力を受けるのか、さらにその時間変化までは分からなかった。
本研究成果は2020年11月に開催された「日本機械学会シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2020」にて発表された内容を基に、その後得られた有力なデータを加えて発表するものである。