慶應義塾大学理工学部化学科の河内卓彌准教授らは、有機分子の環状構造を構築しつつ、離れた位置に二つの炭素-ホウ素結合を形成する新たな手法の開発に成功しました。有機分子内の複数の結合を連続的かつ一挙に創り出すいわゆる「ドミノ型」反応は、複雑な有機分子を高効率的に創出する手法として広く利用されてきましたが、形成された結合どうしが生成物内の近傍に位置する場合に限られていました。2019年に本研究グループでは、「離れた位置」で連続的に結合を構築する「ドミノ・マーブル型」反応を世界に先駆けて開発しており、最近では離れた位置に二つの結合を形成する「遠隔二官能基化」反応が多くの研究者によって開発されるようになってきています。しかし、互いに離れた3つ以上の結合を形成する手法はありませんでした。本研究では、ジボロンというホウ素-ホウ素結合をもつ化合物を反応剤として用いることで、環状構造を構築するとともに2つのホウ素部位を有機分子上に導入でき、互いに離れた3つの結合を連続的に形成する新規分子変換反応を実現しました。本手法で得られる、有機合成において有用な炭素-ホウ素結合を特異な位置にもつ環状化合物は、多様な有機分子への更なる変換が可能です。本手法の開発は、近年革新的な有機合成手法として注目を集める「遠隔官能基化」反応を新たな段階へと発展させ、有機合成化学の更なる飛躍につながることが期待されます。
本研究の成果は、2021年10月25日(現地時間)に、アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版で公開されました。