慶應義塾大学医学部医化学教室の津川仁専任講師、加部泰明准教授、末松誠教授らのグループは、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸類の新規の受容体タンパク質ASCの同定に成功し、これを介した自然免疫賦活作用により、食中毒の原因となるサルモネラ菌感染に対する防御効果が示されることを発見しました。
短鎖脂肪酸類は食物繊維が腸内細菌で代謝されることにより大量に産生され、さまざまな免疫応答調節に関わることが知られていますが、その詳しい作用機構は分かっていませんでした。本研究では独自の薬剤受容体探索技術を用いて、短鎖脂肪酸に特異的に結合するヒト由来の受容体apoptosis-associated speck-like protein(ASC)の同定に成功しました。ASCはインフラマソーム複合体のアダプタータンパク質として働くことが知られています。今回、同グループは、短鎖脂肪酸類がASCのインフラマソーム形成能を活性化することにより免疫担当細胞であるマクロファージなどの自然免疫能を亢進することを解明しました。また、このような免疫賦活化効果は食中毒の要因となるサルモネラ菌の感染防御に寄与することを見出し、腸内で分解されて大量に短鎖脂肪酸類を産生する水溶性の食物繊維の摂取により、サルモネラ菌感染マウスの生存を大幅に延長することを解明しました。これらの知見は短鎖脂肪酸がインフラマソーム活性化を介してサルモネラ感染を抑制する新たな制御機構を明らかにしたものであり、食物繊維などの短鎖脂肪酸類を生成する成分の摂取による病原菌感染防御のための新たな治療・予防法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2020年9月29日(太平洋夏時間)に科学誌『PLoS Biology』のオンライン速報版で公開されました。