慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室の田中伸之助教、大家基嗣教授とスウェーデンカロリンスカ研究所のパー・ウーレン教授らの研究グループは、3次元ライトシート顕微鏡と組織透明化法と組み合わせることで、立体的な腫瘍空間にひろがるタンパク/RNA発現の空間分布を1細胞レベルで解析可能にする、新規癌イメージングDIIFCO (Diagnosing In situ and Immuno-Fluorescence- labelled Cleared Onco-samples)法を開発しました。
従来の組織学的アプローチは、得られた腫瘍組織を薄く切片に(2次元化)し、タンパク及び遺伝子の発現解析を行っていました。これらの手法を用いた解析では、癌微小環境における詳細な3次元腫瘍情報は失われていました。DIIFCO法では、3次元ライトシート顕微鏡を用いることで、透明化処理を施した組織塊の表面から深部まで、1細胞レベルの高解像度で標的分子を検出し、立体像として可視化します。さらに、組織透明化処理に独自の免疫染色およびin situハイブリダイゼーション法を組み合わせ、タンパクとRNAの発現を同時に解析します。最新の顕微鏡と複数の組織処理技術を組み合わせることで、腫瘍の立体構造を保持したまま、腫瘍内に存在する数百~数千万細胞のタンパク/RNAの同時発現解析を1細胞毎に実現しました。
これまで詳しく分かっていなかった腫瘍脈管の立体構造・層構造・および細胞の維持環境である細胞ニッチなどが、本イメージング法によってタンパク/RNAレベルで可視化され、癌微小環境の詳細な画像が世界で初めて明らかになりました。この手法は病理診断後の保存組織にも利用可能であり、癌診断や治療法の選択等、将来的な臨床応用が期待されます。
本研究成果は、2020年6月29日(米国東部時間)に英国科学誌「Nature Biomedical Engineering」に掲載されました。