慶應義塾大学医学部外科学教室(一般・消化器)の尾原秀明准教授、竹内優志助教、北川雄光教授らのグループは、日本で開発された手術部位の消毒薬「オラネキシジン」が、現在国内で汎用されているヨウ素系消毒薬と比較して、手術部位感染のリスクを半減させることを医師主導型前向き無作為化比較試験で明らかにしました。
手術部位感染は手術後に生じ、あらゆる手術に起こりうる最も一般的な合併症の1つです。術後死亡の原因にもなり、入院期間の延長や整容性が損なわれるといった患者さんの苦痛、医療費の増大にもつながります。胃がんや大腸がん、肝臓がんといった消化器外科領域の手術では、約10人に1人の割合で手術部位感染が生じると報告されています。
手術部位感染に対する最も基本的かつ重要な対策は、手術直前に行う切開部位の外皮消毒です。外皮用消毒薬として、日本では半世紀以上もの間、主にヨウ素系消毒薬が用いられてきましたが、近年ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)といった従来の消毒薬に抵抗性を示す菌の手術部位感染が報告されるようになり、これらの菌にも効果を示す新たな手術部位消毒薬の開発が望まれてきました。
オラネキシジン消毒薬は株式会社大塚製薬工場で開発され、2015年に発売開始となった新規消毒薬で、上記の耐性菌に対しても強い殺菌力と速効性を有しています。本臨床試験で、手術後30日間の手術部位感染発生数は、ヨウ素系消毒薬使用群293例中39例(13.3%)であったのに対し、オラネキシジン消毒薬使用群では294例中19例(6.5%)と半減したことが明らかとなりました。
この研究成果は消化器外科領域のみならず、あらゆる領域の手術や医療処置に応用可能で、医療現場で多くの患者さんに役立つことが期待されます。また、手術部位感染を簡便に抑制することにより、医療費抑制効果も予想されます。日本から世界に向けて、新たな手術部位感染予防策のエビデンスを発信することができました。
本研究は6月15日(英国時間)、英国の国際医学雑誌 『The Lancet Infectious Diseases』(ランセット・インフェクシャス・ディジーズ誌)の電子版に掲載されました。