慶應義塾大学自然科学研究教育センター 湯井悟志 訪問研究員(日本学術振興会特別研究員)、法学部日吉物理学教室 小林宏充 教授、大阪市立大学大学院理学研究科 坪田誠 教授、フロリダ州立大学 Wei Guo(Associate Professor)は、極低温で超流動状態になった液体ヘリウム4において、常流体の穏やかな流れ(層流)に現れる異常な速度ゆらぎが、乱流となった超流動成分の量子渦との相互作用で生じることを明らかにしました。これは、1941年にランダウが提唱した低温物理学の標準モデルである“2流体モデル”の二つの成分-超流動と常流動-の運動を分離することに成功した画期的な成果です。
2.17K以下の極低温で超流動状態になった液体ヘリウム4(4He)は、粘性の無い“超流体”と粘性を有する“常流体”の混合状態として記述されます。この2流体モデルは、1941年にランダウが理論的に提案したもので、液体ヘリウムのみならず超伝導でも用いられる標準モデルです。しかし、超流体と常流体の運動を分離して示されたことはこれまでありませんでした。
通常の粘性流体では層流の速度ゆらぎは小さいですが、超流動ヘリウムの流動実験において、常流体は層流状態であるにもかかわらず流れの方向に依存する異常な速度ゆらぎが観測されていました。この論文では、超流体の回転を表す量子渦と常流体の2流体連立数値計算方法を導入して、量子乱流(超流体が乱流になった状態)の数値計算を行いました。解析の結果、層流常流体の流れ方向に依存する異常な速度ゆらぎは、量子渦が作る量子乱流に起因することがわかりました。
この研究成果は、ランダウやファインマンといった著名な物理学者が理論的に提案した2流体モデルの描像を明らかにし、2流体の運動を分離したものです。この2流体連立数値計算は、コヒーレント物質波系(超流動ヘリウム、原子気体ボース・アインシュタイン凝縮体(BEC)、ダークマターBECなど)や多成分流体系(液晶、プラズマ・電磁流体、混相流など)へ大きな影響を与えることが期待できます。
本研究成果は、日本時間2020年4月17日に『Physical Review Letters』オンライン版に掲載されました。
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