慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センターの勝俣良紀専任講師(研究当時:内科学(循環器))、同内科学(循環器)教室の香坂俊専任講師、高月誠司准教授、福田恵一教授らは、心房細動の多施設共同登録研究データ(以下、KiCS-AF レジストリ)を用いた観察研究の結果を発表し、症状の把握のために患者アンケートが有用であることを明らかにしました。
心房細動は最も多い不整脈の一つで、脳梗塞や心不全、認知症のリスクとして知られています。心房細動を起こすと半分くらいの方に動悸や息切れなどの症状を認め、特に症状のある方には積極的な治療が勧められ、薬物治療に加え、心臓カテーテルによるアブレーション治療が近年盛んに行われるようになってきています。
従来は、心房細動の「症状があるかないか」の判断は医師の問診が標準的とされてきましたが、診療の現場では時間の制約や患者の遠慮などさまざまな要因で、医師がきちんと症状を把握できていない可能性がありました。
そこで、本研究グループは、慶應義塾大学病院及びその関連病院が協力して構築したKiCS-AFレジストリを用いて、医師の症状の把握と患者側の症状の認識にズレがないかどうか、またズレがあった場合に治療の選択に影響していないかどうかを検証しました。患者側の症状の認識は AFEQTという心房細動の生活の質(QOL)に用いられる患者報告指標を使用しました。
1,173名の症状を自覚している患者のデータを用いて解析を行ったところ、実に 306名(26%)の患者において、医師による問診と患者側の症状のアンケート結果にズレが生じていました。即ち、患者は症状が「ある」と考えていたものの、医師は問診で症状が「ない」と判断していました(過少認識:under-recognition)。この under-recognitionの患者群では、医師が正しく患者の症状を認識していた群と比較して、カテーテルアブレーションの実施率が 0.42倍の頻度に落ち込んでおり、十分な治療が提供されていない可能性が示されました。
今回の研究では、医師がより患者側に寄り添う努力を行う必要性を示したほか、医師の問診に加え、AFEQTのような患者アンケートを診療に取り入れることで、より患者のニーズに沿った治療を提供できる可能性を提示しました。AI診療の時代を迎え、こうした知見はより重要性を増していくことが考えられます。
本成果は、2020年12月23日(米国東部標準時)に国際学術雑誌の『JACC-clinical electrophysiology』電子版に掲載されました。