慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科の加藤弘陸特任助教(研究実施時は慶應義塾大学大学院経営管理研究科訪問研究員)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の津川友介助教授、ハーバード大学のAnupam B. Jena准教授の共同研究グループは、アメリカの65歳以上の高齢者を対象とした大規模な医療データを用いて、外科医の誕生日に手術を受けた患者の死亡率が、誕生日以外の日に手術を受けた患者の死亡率よりも高いことを明らかにしました。同じ外科医に治療された患者を比較しても同様の結果で、誕生日に手術を受けた患者の死亡率は、誕生日以外の日に手術を受けた患者の死亡率よりも1.3%増加していました(+23%の増加率)。これは臨床的にも無視できない意味のある差だと考えられます。着信音や医療機器のトラブル、手術内容とは必ずしも関係ない会話など、手術中の外科医の注意をそらすような物事は多く存在しているといわれています。しかし、そのような手術中に注意散漫となる状況が、患者の死亡率に与える影響については、これまでほとんど検証されていませんでした。
本研究では、誕生日に外科医がより注意散漫になることや、手術をより早く終えようと急ぐことが原因で、パフォーマンスが変わるのではないかという仮説を立てました。そして外科医の誕生日を、注意散漫な状況と外科医のパフォーマンスの関係を検証する「自然実験」とみなし(多くの患者は執刀医の誕生日を知らないため、それを基準に手術日を選ばず、また緊急手術に限定することで患者が手術日を選択する可能性を少なくした)、外科医の誕生日と患者の死亡率の関係を検証しました。本研究の結果は、外科医のパフォーマンスが仕事とは直接関係のないライフイベントに影響される可能性を示唆しており、医療の質のさらなる改善をはかる上で有益な情報を提供していると考えられます。
本研究成果は、2020年12月10日(英国時間)に英国の国際学術誌「British Medical Journal(BMJ)」のクリスマス特集号にオンライン掲載されました。