慶應義塾大学理工学部応用化学科の高橋大介准教授、戸嶋一敦教授らは、独自に開発してきた糖鎖合成反応を駆使することにより、病原性大腸菌O1に含まれる特異な糖鎖構造の化学合成に初めて成功しました。さらに、その糖鎖構造が、鳥類病原性大腸菌O1(以下、APEC O1と省略)に対するワクチン開発に有望な抗原候補糖鎖であることを明らかにしました。
APEC O1は、養鶏産業に多大な経済的損失をもたらす病原菌の1つであり、人獣共通感染症および多剤耐性菌の出現が懸念されていることから、ワクチン開発が急務です。しかし、従来のワクチン開発では、病原菌から抽出された糖鎖やタンパク質の混合物を直接利用する場合が多く、構造が不均一かつ、病原菌由来の毒性部分を含んでしまう可能性がありました。そのため、化学合成法を用いた安全性の高い複合糖質ワクチンの開発が注目を集めており、本研究で明らかにしたAPEC O1の抗原候補糖鎖を利用することで、今後、安全性の高い複合糖質ワクチンの開発が期待されます。
本研究の成果は、2020年10月30日に、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition (アンゲバンテ ヘミー インターナショナル エディション)」のオンライン版で公開されました。