慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授、整形外科教室の中村雅也教授、谷本祐之助教、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下、量研)量子医学・医療部門放射線医学総合研究所 先進核医学基盤研究部の山崎友照主任研究員、張明栄部長らを中心としたグループは、ヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞を移植したモデルマウスの未分化細胞を、臨床応用可能な陽電子放出断層撮影(以下PET)で画像化することにより、iPS細胞を用いた移植治療の懸念であった造腫瘍性変化を生体内で捉えることに、世界で初めて成功しました。
これまで、慶應義塾大学医学部では、脊髄損傷モデル動物に対してヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞塊(ニューロスフェア)の移植を行い、運動機能の改善を報告してきました。
しかし、一部の造腫瘍性を有する株では、未分化性が移植後長期間持続することや未分化神経細胞の増殖傾向があり、そのため、移植後の安全性確保のために、腫瘍化や細胞増殖を継続してモニタリングすることのできる技術が望まれてきました。侵襲性の少ない画像診断により移植細胞を生体内で経過観察することができれば、危険な腫瘍性変化を早期に検出し、病巣部切除などの対策を講じることが可能になると考えられます。しかし、現在まで移植細胞の造腫瘍性変化を可視化できる臨床応用可能なイメージング技術は世界でも報告されていません。
今回、研究グループは、生体内分子の機能情報を観察することができるイメージング技術を用いて、マウスの脳・脊髄内におけるヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞移植後に残存した未分化神経組織の造腫瘍性変化を生体内で検出することに成功しました。
今回の研究成果は、脊髄損傷患者や脳外傷患者などに対して、ヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞移植を行なった後の臨床経過を観察するための生体内細胞モニタリング技術として、役立つことが期待され、より安全な再生医療の確立に向けた大きな成果であると言えます。
本研究成果は、2020年1月6日(米国東部時間)に、『STEM CELLS Translational Medicine』に掲載されました。
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