JST 戦略的創造研究推進事業において、慶應義塾大学 理工学部の緒明 佑哉准教授、沼澤 博道大学院生(当時)らの研究グループは、東京大学 大学院新領域創成科学研究科の五十嵐 康彦助教らと共同で、マテリアルズインフォマティクス(MI)により、リチウムイオン二次電池の負極となる有機材料の新たな設計指針を確立し、極めて少ない実験数で高容量・高耐久性の材料を得ることに成功しました。
電池の省資源化に向けて、金属を使わない有機材料が世界的に研究されています。リチウム電池やナトリウム電池などの負極材料の探索は従来、研究者の試行錯誤や経験と勘に頼らざるをえませんでした。
MIは一般に、大規模なデータ(ビッグデータ)に対して機械学習を行い、研究者の経験と勘の関与を減らすための手段です。実験科学者が小規模な自前のデータや経験知をどう活用するかは課題でした。
研究グループは、小規模でも比較的正確な実験データと実験科学者の経験と勘を融合した「実験主導型MI」の手法を研究し、これまでにもナノシート材料の収率向上などを達成してきました。
本研究では、まず16個の有機化合物について負極としての容量を実測し、容量を決定付けている少数の要因を、データ科学的手法の1つであるスパースモデリングで抽出しました。この学習結果に基づき、抽出した因子を変数とした容量予測式(予測モデル)を構築しました。次に、市販の化合物の中から、研究者の経験と勘も交えながら、負極としてある程度の容量が見込まれる11個の市販の化合物を選び、実験をする前に容量の予測値を算出しました。予測値の高かった3個の化合物について容量を実測すると、2個の化合物で高容量を示しました。さらに、このうちの1つであるチオフェン化合物を重合すると、容量、耐久性、高速充放電特性が向上した高分子の負極材料を得ることができました。
本研究で確立した有機負極材料の設計指針は、さらなる性能向上を目指す上で重要となります。また、少ない実験データ、研究者の経験と勘、機械学習を融合し、高性能な材料の探索に成功したことで、実験科学とMIとの融合が材料探索を効率化する手法の有効性が示せました。
本研究成果は、2019年9月6日(ドイツ時間)に国際科学誌「Advanced Theory and Simulations」のオンライン速報版で公開されます。
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