理化学研究所脳神経科学研究センター発生神経生物研究チームの松浦徹研究員(現在、関西医科大学医学部実験病理学講座講師)と理化学研究所脳神経科学研究センター発生神経生物研究チーム、チームリーダー 兼 慶應義塾大学医学部薬理学教室客員教授の御子柴克彦の研究チームは、マウスの受精の際に受精卵内で放出されたカルシウムイオンが、ポジティブフィードバックにより、さらにカルシウムイオンを放出させることで、数時間もの間カルシウムイオン濃度の振動(カルシウム振動)を維持する新しい仕組みが存在することを明らかにしました。
ヒトを含むほとんどの哺乳動物種において、排卵された卵子は減数第二分裂中期で減数分裂を停止しているが、精子との受精により活性化し、発生を開始します。この卵子の活性化を引き起こすのが、カルシウム振動です。
受精によって卵の中のカルシウムイオン濃度は上昇・下降を繰り返し、これによって卵子の表層顆粒の放出、細胞分裂抑制因子の不活性化、第二極体放出、そして前核形成という卵活性化が引き起こされていきます。カルシウム振動は数時間にわたって維持され、カルシウム振動の持続時間と胚の発生には関係があることが知られており、カルシウム振動を維持することは胚の正常な発生に重要です。
研究チームは、まず卵内のカルシウムイオン濃度を上昇させる物質であるイノシトール3リン酸(IP3)とカルシウムイオンを可視化するための遺伝子導入可能な新しいセンサーを開発しました。
新しいIP3センサーはこれまでのものと比較して10倍の感度を持ち、受精卵内の微小なIP3濃度変化を世界で初めて捉えることに成功しました。またこのIP3センサーと共に用いることのできるカルシウムセンサーも開発しています。
研究チームはこれらのセンサーを用いて受精卵内のIP3とカルシウムイオン濃度変化の測定を行い、カルシウムイオン濃度上昇によってIP3を産生するホスホリパーゼC酵素が活性化し、さらにIP3の産生を起こすことを明らかにしました。つまり、このカルシウム―ホスホリパーゼC-IP3によるポジティブフィードバックによって、受精後の卵内にIP3が蓄積し、長時間のカルシウム振動を維持し、正常な胚の発生を促すことが分かりました。
本研究成果は2019年3月18日(月)(英国時間)に、英科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載されました。
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