慶應義塾大学医学部内科学教室(循環器)の佐野元昭准教授、後藤信一助教らの研究グループは、人工知能(AI)を応用して、胸痛で救急外来を受診した患者の心電図1枚から、その患者にカテーテル治療が必要かどうかを80%以上の精度で瞬時に判定する技術を開発しました。
心臓は心筋と呼ばれる筋肉でできており、全身に血液を送り出すポンプとしての役割を担っています。心臓が活動するために必要な酸素と栄養を供給する血管(冠動脈)には、年齢とともに「悪玉コレステロール」を主とした脂質(プラーク)が沈着していきます。このプラークが破けて、冠動脈内に血の塊(血栓)が急にでき、血液の流れが非常に悪くなったり、血管が完全に詰まったりしてしまうために起こる現象が急性冠症候群です。
中でも急性心筋梗塞は、心筋壊死が急速に進行していく病態であり、そのままではポンプ失調、致死性不整脈や心破裂等の命にかかわる事態に陥ります。これを治療するには、詰まっている血管に対し、いかに早くカテーテル治療を行って冠動脈の血流を再開通させるかが重要です。発症からカテーテル治療開始までの時間を短縮するためには、迅速に診断しなければなりません。この急性冠症候群の診断において、心電図は中心的な役割を果たしていますが、医師の診断能力にはばらつきが大きく、また、現在心電計に搭載されている心電図自動解析の精度も満足のいくものではありません。一方で、手足等の動脈から心臓近くまで細い管を挿入するカテーテル検査は、リスクを伴う検査であり、胸痛を訴える患者全員にやみくもに行うことはできません。真にカテーテル治療が必要な患者を正確に見分けるために、より精度の高い心電図自動解析の開発が求められていました。
本技術は「実際にカテーテル検査を行い、冠動脈を広げる治療を緊急で行ったかどうか」を正解として心電図を学習したもので、これに新しい心電図を与えるとカテーテル治療の要否が瞬時に判定されます。つまり、これまで経験を積んだ循環器内科医がカテーテル検査を含めたさまざまな情報を総合して判断していたことを、本技術によって、心電図が1枚あれば、80%以上の確率で再現できることになります。心電図は受診すればすぐに検査でき、結果は数分以内に得られます。本技術を心電計に搭載することによって、カテーテル治療の必要性を迅速かつ正確に自動診断し医師に提案することが可能になります。日本人死亡原因の第2位を占める心臓病による死亡を減少させ、健康寿命の延長にも貢献できると期待されます。
本研究成果は、2019年1月9日14時(米国東部時間)米国科学誌『PLOS ONE』オンライン版に掲載されました。
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