近年の再生医療への期待の中で、3次元的な器官形成機構の解明はますます重要と考えられています。特に私たちの体内には肺、消化管、血管等の数多くの管組織が存在しますが、これらの管が形成されるメカニズムはほとんどわかっていません。慶應義塾大学理工学部 井本正哉教授、堀田耕司専任講師、同大学大学院理工学研究科の溝谷優治(博士課程3年)らは、この問題に取り組み、組織の観察に適したホヤを用い、ケミカルバイオロジーの研究手法で脊索管形成を阻害する化合物を見出しました。次にこの化合物が特定のタンパク質に結合し、別のタンパク質との相互作用を阻害することを見出しました。この2種類のタンパク質の相互作用の脊索管形成における役割を解析した結果、この相互作用が細胞の基底部から管腔にむかう物質の「流れ」を引き起こし、この「流れ」に乗って管腔の形成に関わるさまざまな基底部の因子を管腔へと運んでいることを明らかにしました。このようなメカニズムを解明したのは世界初です。本研究はケミカルバイオロジーと発生生物学を融合させたユニークなアプローチです。その過程では、管形成とがんとの意外な関わりも垣間見えてきました。本研究は発生学分野のみならず、再生医学やがん研究など、幅広い分野における知見をもたらすことが期待されます。
研究成果は、2018年8月29日 (米国東部時間)に米国科学アカデミー紀要 (PNAS) にオンライン掲載されました。
プレスリリース全文は、以下をご覧下さい。