慶應義塾大学医学部内科学(リウマチ・膠原病)教室の竹内勤教授、鈴木勝也専任講師、微生物・免疫学教室の吉村昭彦教授らは、武田薬品工業株式会社との共同研究により、関節リウマチ患者の寛解状態の分子特徴を多層オミックス解析により明らかにしました。
薬物療法により、関節の痛みや腫れがほぼない寛解状態(臨床的寛解)を達成することが可能になりましたが、体の中の分子の状態が健常人にどの程度近づいているかは分かっていませんでした。そこで、様々な分子の発現量のデータに基づいて寛解を定義し(以下、「分子的寛解」)、患者体内の分子状態を経時的に観察したところ、薬物療法により分子的寛解が誘導されることがわかりました。さらに、分子的寛解の程度は長期にわたる関節リウマチの炎症の度合いや身体機能障害の指標と強い関連が認められ、持続的な寛解に重要であることが明らかとなりました。
一方で、一部の分子特徴は薬物療法後も依然として健常人と異なっており、これらは現在用いられている炎症度合いや身体機能障害の指標とは関連しない関節リウマチ患者の特徴であることも見いだされました。さらに、患者体内の分子情報に関する公共データを利用した解析から炎症性腸疾患や肥満患者の特徴と共通点が認められることから、これらの疾患の病態解明や創薬への応用の可能性も考えられます。
かねてより産学連携のもとで行われた本研究は、質の高い臨床情報と最新の多層オミックス・バイオインフォマティックス技術を統合し、分子的寛解という新たな治療目標を示す画期的な成果を上げました。今後、関節リウマチの精密医療の実現や新規創薬に向けた貴重な一歩となることが期待されます。
本研究成果は、2018年7月16日(英国時間)に国際科学論文誌『Nature Communications』のオンライン版に掲載されました。
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