慶應義塾大学医学部内科学(呼吸器)教授 別役智子研究室の石井誠専任講師、南宮湖共同研究員、同感染制御センターの長谷川直樹教授らの研究グループは、経口抗菌薬(抗生物質)として汎用されているマクロライド系抗菌薬が抗菌作用とは別に持つ、免疫の調整や炎症を抑制する保護的作用の新たなメカニズムを解明しました。
マクロライドは、日本において、経口抗菌薬使用割合が33%を占める最も使用量の多い抗菌薬です(2013年、厚生労働省統計)。マクロライドは、菌を殺したり増殖を抑制する抗菌作用の他に、免疫を調整したり、炎症をおさえる作用を有することが知られています。その免疫調整作用・抗炎症作用を期待して、臨床では、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)の増悪の予防など、多くの呼吸器疾患に対して治療薬として広く利用されています。しかし、これまでその効果について詳細なメカニズムは不明でした。
今回、石井誠専任講師らの研究グループは、マクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンの投与により、骨髄由来免疫抑制細胞(以下、MDSC)様の性質を有するCD11b陽性Gr-1陽性細胞(MDSC様細胞)が、肺や脾臓で約2.5から3.3倍に増加することを発見しました。さらに、その増加したMDSC 様細胞が免疫調整作用に主たる役割を果たしていることをマウスモデル(細菌の菌体成分の内毒素によるショックモデルや、インフルエンザ感染後2次性細菌肺炎モデル)を用いて解明し、ヒトでもクラリスロマイシンの投与によりMDSC様細胞が増加している可能性を示しました。
適正でない抗生剤の使用は薬剤耐性菌を生み出す原因となることから、厚生労働省は抗生剤の使用量の削減を推進しています。本研究の成果は、マクロライドの免疫調整作用に限定して効果を持つ新たな薬剤の開発に貢献することが期待され、世界的な課題である薬剤耐性(Antimicrobial Resistance: AMR)対策の点から、意義を有します。
本研究成果は、2018年4月5日(米国東部時間)に国際科学誌『PLOS Pathogens』オンライン版に掲載されました。
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