6月30日、福澤研究センター設置科目「近代日本と福澤諭吉Ⅰ」の授業において、大分県中津市長の奥塚正典氏を講師にお迎えし、講演が行われました。日吉キャンパスで開講するこの授業は、福澤先生の生涯と慶應義塾の歴史を通して、それぞれが日本の近代化に果たした役割について多角的に学びます。
講演は「不滅の福澤と学びの里中津」をテーマに5つのパートで行われました。パート内容は「中津市の紹介」、「福澤・慶應と中津市」、「不滅の福澤プロジェクト」「私にとっての福澤諭吉」「学びの里づくり」です。
福澤先生ゆかりのモノとコトとして、明治4年の設立に協力した中津市学校の校門(現在は南部小学校の門)や命日にあわせた記念法要と講演会、福澤諭吉記念を冠した全国の高校生向けの弁論大会のほか、中津市の中学生対象のジュニア諭吉検定や小学生向けの諭吉かるた大会などの取り組みを紹介。一万円札の顔として最長の40年活躍された福澤先生の功績を後世に伝えていく「不滅の福澤プロジェクト」についてのお話があり、先生が1歳半から19歳までを過ごした中津との深いかかわりについて学びます。また、古地図を活用したまち歩きマップ、記念切手の発行、福澤先生の肖像画があしらわれているラッピングトラックなど観光としての中津の魅力もお話いただきました。
奥塚市長からは、「塾生の皆さんには、ぜひ中津市にお越しいただき、現地をご覧いただきたいです。自然豊かな環境でテーマを決めてフィールドワークを実践していただいたり、福澤先生ゆかりの場所を巡ったりすることもおすすめです。私たちはいつでも歓迎します」とメッセージをいただきました。
塾生からの質問コーナーでは「古民家や空き家は具体的にどのように活用されていますか」「福澤先生以外に尊敬する人物はいますか」「市長になってよく読む本や好きな本はなんでしょうか」と質問が絶えず、塾生にとって奥塚市長との貴重なコミュニケーションの機会も得ることができました。
中津市は2024年9月に「学びの里なかつ推進宣言条例」を制定し、いつでも・どこでも・だれでも、市民が学びたいときに学ぶことができる場の提供に努め、「学びの里なかつ」を推進しています。この条例は、福澤先生が「学問のすゝめ」で説いた“すべての人が平等に学ぶ権利を持っている”という理念を体現するものです。今後も中津市と慶應義塾は文化・教育・学術等の分野で相互連携を強化していきます。
また、講義終了後、奥塚市長は慶應義塾関係者と日吉キャンパス内に残る戦争遺跡日吉台地下壕を訪れました。この地下壕は、太平洋戦争中に旧海軍連合艦隊司令部として使用されていたもので、戦争の記憶を今に伝える貴重な遺構の一つです。太平洋戦争の終戦から80年となる2025年の夏、福澤研究センターでは、企画展「ある一家の近代と戦争-上原良春・龍男・良司とその家族」を開催し、上原家を通じた日本の近代化と戦争の記録を公開しています。