7月23日(水)午前11時より、三田演説館にて、欧州委員会委員長を務めるウルズラ・フォン・デア・ライエン氏に対する慶應義塾大学名誉博士称号授与式が行われました。
ライエン氏は、欧州委員会初の女性委員長として、新型コロナウイルス感染症への対応を主導したほか、ウクライナ支援、脱炭素社会に向けたグリーン・ディールの推進など、多岐にわたる国際課題に取り組み、欧州連合の政策イノベーションを牽引してこられました。これらの功績に敬意を表し、慶應義塾大学名誉博士の称号を授与することとなりました。
授与式では、土屋大洋常任理事の司会のもと、高汐一紀政策・メディア研究科委員長が推薦文を朗読しました。続いて、伊藤公平塾長がライエン氏に名誉学位記を授与して式辞を述べ、それに応えてライエン氏からの謝辞がありました。
ライエン氏はスピーチの中で、福澤諭吉の著作『文明論之概略』に触れ、本年がその刊行150周年であることを紹介しました。そして、福澤が説いた「自由と独立」の理念は、現代にも通じる普遍的な価値であると強調しました。とりわけ「独立」とは、外部の影響に左右されず、自らの判断で行動する力であり、不安定な時代にこそ必要な資質であると述べました。
さらに、「世界が“独立性”や“強さ”を模索する今、真の意味での独立は“協力”によってこそ実現する」と語り、日本とEUの協力関係の意義を強調しました。
また、医師の経験を積んだ後に、公衆衛生の修士学位を取得した経験に触れ、欧州での新型コロナウイルス対応を振り返りました。その上で、責任ある行動がいかに社会全体に影響を及ぼすかを学生たちに語り、これは福澤の精神にも通じると訴えました。
スピーチの締めくくりでは、「気候変動に関する研究が、遠く離れた沿岸の町を守るかもしれない。医学の発見が、大陸の向こうの患者を救うかもしれない。これこそが、国際社会の一員であるということだ」と学生たちに呼びかけました。そして「他者のために責任を果たせば、やがて誰かがあなたのために責任を果たしてくれる」と続け、この理念は欧州と日本の歴史に根差したものであり、福澤諭吉が世界に残した教えでもあると述べました。最後に、その教えを胸に、それぞれの道を歩んでいくよう学生たちに力強くエールを送りました。