慶應医学賞は1996年から始まった慶應義塾医学振興基金の主要事業の1つです。今年のノーベル生理学・医学賞を受賞した大阪大学の坂口志文博士(第13回(2008年)慶應医学賞受賞)を含め、これまでに本賞受賞者からノーベル賞受賞者を13名輩出しており、世界からも注目される国際的な賞となっています。
第30回(2025年度)慶應医学賞授賞式および受賞記念講演会が11月4日に信濃町キャンパスの北里記念医学図書館2階北里講堂にて開催されました。本年は、プリンストン大学化学・生物工学教授のクリフォード・ポール・ブランウィン博士が、授賞研究テーマ「細胞内の液-液相分離の発見」によって受賞。イェール大学医学部免疫生物学スターリング教授の岩崎明子博士は、授賞研究テーマ「新型コロナウイルス感染症に対するヒト免疫応答の解明」によってそれぞれ受賞しました。
授賞式は、慶應義塾ワグネル・ソサイエティー・オーケストラの演奏が来場者を迎え入れる中で幕を開け、サンペトラ・オルテアBio2Q特任教授の司会進行により開会しました。冒頭、慶應医学賞審査委員長の佐藤俊朗医学部教授から、選考過程の報告がありました。今年の慶應医学賞は、昨年末から準備を開始し、今年の1月に世界中の研究者や研究機関の長など数千人から推薦を募り、122名の候補者に対する5回にわたる厳正な審査を経て、8月7日の最終選考会で両博士が選出された経緯が報告されました。
次に、伊藤公平塾長から両博士にメダルと賞状、賞金の目録が授与されました。伊藤塾長は祝辞の中で、両博士の輝かしい功績を称えるとともに、本年の選考関係者への感謝を述べ、慶應医学賞が今後も医学と生命科学の発展を通じて人類の進歩と幸福に貢献できると信じている、と語りました。続いて、武林亨医学部長が祝辞を述べ、本賞が第30回という節目の年を迎えられたことへの感謝と、医学部の今後の展望について話し、受賞者の研究に対する姿勢やその業績に触れることは、研究者や学生にとってまたとない貴重な機会となる、と結びました。
授賞式の最後は、受賞者の挨拶で締めくくられました。両博士は、受賞の喜び、これまでの研究の経緯、そして関係者への深い謝意を述べました。ブランウィン博士は、今回の受賞は、国、文化、専門分野を超えた協力を通じて人類が直面する課題に取り組むという、私たちが共有する責任をあらためて強く認識させてくれるものだと語りました。岩崎博士は初の日本出身女性として慶應医学賞を受賞したことに触れ、長年の研究を支えてくれた家族や研究仲間への感謝の意を述べました。
続いて受賞記念講演会が行われました。ブランウィン博士は“Living Droplets: Liquid-Liquid Phase Separation in Cell Physiology and Disease”と題し、細胞内の液―液相分離を駆動する物理的原理を解明する研究と、現在進行中の研究について発表しました。岩崎博士は“Advancing Understanding of Human Immunity to COVID-19”と題し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病原性メカニズムを裏付ける主要な知見に焦点を当てるとともに、この分野のさらなる進展に必要な今後の研究の方向性について語りました。講演会は来賓、教職員、学⽣など約100名の聴衆が聴き入り、それぞれの講演後に寄せられた複数の質問に両受賞者とも熱心に回答し、活発な議論が交わされました。