体内をめぐる水の“違い”をどうやって観察しているのでしょう。水は酸素(O)原子一つと水素(H)原子二つが結合した水分子(H2O)からできていますが、このOとHが結合している部分は常に水分子に固有の振動をしています。水の状態(水素結合のパターン)の変化が、この振動のちょっとした変化を生み出し、赤外線を当てることでそれを測定できるといいます。
また、この手法では短い波長から長い波長までひと続きの情報(スペクトル)を一気に得ることができます。このデータを継続して蓄積していけば、測定後でもさまざまな情報について新たな解析を行うこともできます。
「今使われている『MRI検査』では、体内の水が持っているH原子の核スピン情報からガンや炎症を診ています。がん組織の『水』から出てくる信号が正常な組織と違うから見分けがつくわけで、僕たちがやりたいことを実証していることに他なりません。しかし、この違いが原因と結果のどちらからくるのかは、まだわかりません。水のふるまいをもっと詳細にとらえることで生体機能を基礎から考えたい、という研究を地道に行っています」
一方、安井教授は、生体内の水の研究を進めるにあたり実際に「見る」ことにとても力を入れています。
「企業と力を合わせて、水を『見る』顕微鏡を作りました。私たちの体内、細胞の中で交換されている水を見る顕微鏡です。一つのアクアポリンを通じて1秒間に3×109個の水分子が行き来しています。その“通り道”が赤血球の細胞一つに30万個存在します。それだけダイナミックに水を循環させる必要があるということなのですが、この顕微鏡では水をやり取りするスピードまで生きている状態でそのまま測ることができます」
さらには近年の技術革新の甲斐もあり、コンピュータによって計算時間が飛躍的に短くなったため、水分子がやり取りされる様子をCGで再現することもできるようになりました。
「研究を始めた10年ほど前は計算に3ヶ月ほどかかっていましたが、今ではスーパーコンピュータを使えば3日でできます。その分、もっと長い時間がかかる現象も解析できるようになりました。CGにして視覚的に伝えることができれば、どんな人にも何が起こっているのかわかりますよね」