慶應義塾

つながる歴史へ

執筆者プロフィール

  • 太田 淳

    社会学研究科 社会学専攻 教授

    太田 淳

    社会学研究科 社会学専攻 教授

私は18-20世紀インドネシアを中心に様々な角度からの歴史研究を試みていますが、一貫して「つながる歴史」を描こうとしてきました。「つながる」というのは、それまで一つの社会や一つのシステムと見なされていたものの内部要素が、様々な経路を通じて結びつくダイナミクスと捉えられます。私たちは習慣的に一定の社会やシステムといった枠組で世界を観察する傾向がありますが、人間や人間社会はそれらを超えてつながる力を持つことを見出したいのです。博士論文から取り組んだ西ジャワのバンテンという地域の研究では、オランダ東インド会社による支配が進行する中で、地域社会の有力者が商品作物(主に胡椒)の栽培を強制する会社の制度を利用して自らの影響力を強めたこと、胡椒生産者は作物を地域有力者でなく外部の民間商人に売却して海外市場とつながったことなどを論じました。そうした民間商人の多くはマレー海域の海洋移民で、資料ではしばしば「密輸商人」や「海賊」と記されますが、彼らは異なる地域の需要と供給を結びつけました。この需要は、18世紀中国の経済発展地域で台頭した中間層の間で、胡椒やナマコや燕の巣などの外食や顕示的消費が増えたことから生まれ、東南アジアの生産地と中国経済がつながりました。私は海賊だけでなく社会の中心にいない人々が異なる経済や文化をつなげる働きに関心があり、女性や混血者の役割にも注目しています。最近では、様々な気候変動が人間の生業や社会構築に与えた影響に着目し、歴史気象学という自然科学的知見と社会経済史をつなげることにも取り組んでいます。