執筆者プロフィール
小倉 康嗣
社会学研究科 社会学専攻 教授小倉 康嗣
社会学研究科 社会学専攻 教授
人びとのライフストーリーを社会学的な見地から調査研究しています。ライフストーリーとは個人の生(life)についての口述の物語です。つまり人びとの生の語りをインタビューすることがライフストーリー研究の重要な営為になるわけですが、ライフストーリー・インタビューは単なるインタビューではありません。そこには独自の問題意識と視点があります。
第一に、個人の生の全体性への接近です。語り手の属性(社会的カテゴリー)や語りの内容(事実情報)だけでなく、それらを背負って語りが生成されていく人生過程上の経験とそれが生かされている関係性の堆積こそを見ていこうとします。そのようなインタビューのなかで第二に、「いま・ここ」と「あのとき・あそこ」のダイナミズムによるストーリー生成がなされます。それは語り手の生の全体性が凝縮され、語り手を突き動かすものとして「いま・ここ」のインタビューの場で「あのとき・あそこ」のことがパフォーマティブに語られる(あるいは沈黙される)ストーリーです。これらは第三に、語り手と聞き手の対話的相互行為のなかで引き起こされ、その後の考察も含めたプロセスのなかで、語り手(調査協力者)の生にも聞き手(調査研究者)の生にも異化をもたらします。
つまり、このような生の全体性に根差した対話的インタビューとその考察のなかで、調査協力者だけではなく調査研究者自身の枠組みも(さらには生も)同時に問われていくわけです。そしてそのプロセスそれ自体が、豊かな社会学的示唆を与えてくれる探究の対象となる。そのような意味でライフストーリー研究は、ダイナミックで生成的な研究です。
いま私は、原爆体験の継承の現場でこのライフストーリー研究のアプローチを試みています。そこでは、原爆体験の風化(形骸化・他人事化)を超えていく経験的地平が、まさしくダイナミックに生成されています。