慶應義塾

心理学専攻・実験心理学レポート: #1:乳幼児はいかにして心理的発達を遂げるのか

執筆者プロフィール

  • 皆川 泰代

    社会学研究科 心理学専攻 教授

    皆川 泰代

    社会学研究科 心理学専攻 教授

慶應義塾大学大学院社会学研究科の心理学専攻では、実験心理学に重きを置いています。中でも皆川准教授の研究室では、生後5~6か月から2歳くらいまでの乳幼児を対象に、様々な発達検査から子どもの脳の発達過程を乳幼児から研究。対象者を0~2歳に限定するのは、脳はその年代に著しく発達すると考えられ、言葉も発達する時期だからです。またこの時期には、脳の基礎的な部分が出来上がります。

例を挙げると、0歳のある時期に眼帯をしていると、そちら側の目だけ悪くなってしまうのですが、これは非可逆的で、後から修正が効きません。それだけに、乳幼児の発達と心理の関係を解き明かすことが大きな課題といえるのです。

プレイルームでの発達検査

プレイルームでの発達検査

基本的な発達検査はキャンパス内に設置しているプレイルームで行われます。天井に設置されたドーム型のデジタルカメラによって、乳幼児の動きをリアルタイムで隣の部屋にある多方向モニタリングシステムで観察することもできます。

プレイルームで行われる乳幼児の発達検査にはいくつかの方法があります。母親の膝に抱えられた乳幼児の目の前で、赤を中心とした原色系の小物を振り、それをちゃんと目で追うか、あるいは手を出して握ろうとするかなど様々な反応を確認。この検査によって明らかになるのは、運動機能や手先の器用さで、ものの握り方からも発達段階のレベルを確認できます。この実験室には少数ですが、早産や、兄弟に自閉症児がいるリスク児と呼ばれる子どもの来訪もあります。そのような子どもたちに段階的に発達検査を行い、明らかになった言語や社会性の発達と、別途得られた発達初期の脳機能データやアイカメラの指標がどのように関係しているかを検討します。つまり、発達初期での脳反応が後の発達を予期するかを明らかにし、できるだけ早期に発達障害を見極める方法を見つけ出すことが研究の目的です。

防音室での脳機能検査

防音室での脳機能検査

この7~8年間、乳幼児の脳機能を検査していく中で明らかになってきたのは、赤ちゃんの脳は、大人の脳と多くの共通項があり、発達のレベルは以前から考えられていた以上であること。最近は、前頭葉と言語野などの脳と脳の結びつきを調べることも出来るようになってきました。例えば新生児でさえ、母親の声を聞いた時に自分がよく知っている声だということを同定し、その母親の声が言語野を活性化させるということが分かってきました。新生児の内から母親の声に反応する理由は、お腹の中にいる時から、よく耳にしていたからだと考えられます。逆に、生まれてすぐに母親から引き離され、長い入院生活などのため母親の声を聞いていないと、自分の母親の声には反応しなくなることもあります。これらの新生児の研究は慶應義塾大学医学部小児科学教室との共同研究です。

このような音声に対する脳機能を研究するため、防音室において近赤外分光法(NIRS)を用いた実験を行っています。NIRS計測では乳幼児の頭にセンサーを付けて、脳機能の検査を実施します。脳の一部が活性化すると、血流が盛んになり、その部分に光を照射した際、光がヘモグロビンに吸収され戻ってくる光量が減少します。具体的には、検出プロブと呼ばれるセンサーで、脳のどの箇所が活性化しているかを判断するのです。

他にも、母子愛着と脳の発達関係の研究から自閉症スペクトラム障害の発生原因の解明へも糸口を見つけつつあります。

発達心理学分野との共同研究

発達心理学分野との共同研究

最近は、発達心理学の山本教授と、発達障害の子どもについての共同研究も行っています。自閉症スペクトラム障害の子どもについても、NIRSを使っての検査を実施。例えば、アとエの母音の違いを、1歳過ぎている普通の子どもや大人は、左優位で処理します。一方、自閉症の子どもは、乳幼児の頃と同じように、両方の聴覚野に同じような反応が出ます。兄弟に自閉症児がいるリスク児でも、3歳ぐらいまでは、まだ自閉症スペクトラム障害かどうかの診断は付きません。そのような子どもたちには、0歳、1歳、2歳、3歳と段階的に追跡研究を続けます。

脳機能検査においては、NIRSとアイカメラと、両方を組み合わせて検査することもあります。例えば、目の前で話をしている人がいる場合に、相手の人の目を見ているのか、あるいは口を見ているのか、などということも分かります。一時期は、話をしている大人の口元を見る子が、言語発達が優れていると言われていたのですが、相手の目を見る子の方が、言語発達が優れているとも言われていて、色々な意見があるようです。