福澤先生の著作で最も多くの翻訳本が出されているのは『福翁自伝』。英語、中国語、フランス語、ドイツ語、オランダ語、韓国語、タガログ語、ベトナム語、アラビア語、トルコ語の10カ国語に訳されている。
次に多いのは『学問のすゝめ』で、英語をはじめ中国語、フランス語、タイ語、インドネシア語、韓国語、モンゴル語の7カ国語があり、『文明論之概略』は英語、ペルシャ語、インドネシア語、中国語の翻訳本がある。
英語からの孫訳も多く内容的には玉石混交といわれているものの、『福翁自伝』がこれだけ多くの言語に訳され読まれているのは、日本の文明開化に力を注いだ人物の自伝としての評価に加え、内容の面白さが国際的に認められているからだろう。1992年に再版された米マディソン書店版の英訳本の序文で、ハーバード大学のA・クレイグ教授(当時)は、これは若き福澤諭吉のオデッセーだ、とホメロスの叙事詩にたとえている。
また、2005年に出版されたベトナム語版を翻訳したのは、ハノイ大学で日本語を学び、奈良で日本仏教史の研究をしている留学生である。「本当の福澤先生の姿を知ってほしい」と2年がかりで翻訳した。
そのほか教育論、女性論などに関する論説の英訳、『福翁百話』などの中国語訳もある。