本は閲覧のために生まれてきたので、単に貴重だからといって、閲覧できないのは教育・研究を支援する図書館なら許されないかもしれない。義塾図書館では、貴重書は指導教授の了解を得て所定の手続きをとって閲覧できる。閲覧には当然本の傷みが伴う。しかしそれは本の宿命である。最近「資料保存」という言葉に関心が集まっている。その観点から、国立国会図書館ではマイクロフィルム化された貴重書は、現物の閲覧はできない。義塾図書館では近い将来に向けて、貴重書をマイクロ化、デジタル化したものをまず閲覧者に見てもらい、最後に現物を閲覧してもらうことを検討している。閲覧と資料保存を両立させるためである。
貴重であるが故、閲覧の際にはいくつかの配慮をし、「筆記用具には、鉛筆をお使いください」など、十カ条の閲覧ルールを作っている。ボールペンは誤って貴重書にペン先が触れた場合、もう消せないからである。鉛筆は貴重書室で用意している。
洋書は革と紙と糸と糊という異なる材質からできているので、経年すると材質がさまざまに変化する。空気が乾燥すると、革はかさかさになり、紙も乾燥するし、二カワ糊も弾力性がなくなる。無理に開くと、本の背に負担がかかるので背表紙が割れる。欧米では閲覧時に180度開かないようにするためにスポンジ製のブックレストを一般的に用いているが、シカゴのニューベリー図書館では日本の布団をもじった“Book Futon”「ブックフートン」というお手製のブックレストも使っている。それは80×30センチの帯状の布に綿を入れたもので、本のページの進み具合によって、丸める度合いを変えていくものである。半分読み終わった本を置く時は、ブックフートンの端を両側から丸め込むと、本がちょうどV字形になる。義塾図書館ではこのブックフートンを作製し閲覧の際に供している。
閲覧するには明かりを必要とする。新聞紙を日なたに2、3日出しておくと、紫外線で黄ばんでしまう。閲覧室は紫外線を発する蛍光灯を使っていない。さらに、外からの紫外線を防ぐために、紫外線カットフィルムを窓ガラスに貼っている。閲覧以外の時、収蔵している時でも貴重書のために設備を常に整えている。