慶應義塾大学医学部泌尿器科学教室の梅田浩太共同研究員、田中伸之専任講師、大家基嗣教授と東京大学大学院理学系研究科の角田達彦教授(兼 同大学新領域創成科学研究科教授)、東京科学大学総合研究院M&Dデータ科学センター・AI・ビッグデータ研究部門AI技術開発分野の鎌谷高志講師らの研究グループは、転移性尿路上皮がんが免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性を獲得するメカニズムとして、がん細胞の生存過程でがん原性の遺伝子変異が繰り返し生じ、多種の悪性サブクローンが生まれて、免疫チェックポイント阻害薬では克服できない免疫抑制環境を作り出していることを明らかにしました。
本研究では、転移が生じた(転移性)尿路上皮がんの剖検例において、腫瘍部位間での抗PD-1療法に対する反応の違いに着目して、多領域の腫瘍オミクス解析を行い、一部のサブクローン(悪性サブクローン)が治療中にがん悪化の原因となる固有の遺伝子変異を起こしていることを明らかにしました。さらに、空間トランスクリプトミクスや単一細胞解析により、悪性サブクローンは、その生息環境と一致し、固有の免疫抑制環境を形成していることも明らかになりました。
近年、腫瘍内部に悪性サブクローンが共存することが予後不良に関連する、すなわち一部の悪性度が高いサブクローンが腫瘍全体の挙動に影響を与えるという 「悪いリンゴ, bad apple」概念が注目を集めています。本研究によって得られる知見は、免疫チェックポイント阻害薬の効果を高めるためのサブクローン標的戦略や免疫微小環境の改変等、将来のがん免疫治療の開発につながることが期待されます。
研究成果は、2025年8月27日(英国夏時間)に英国科学誌Nature Communicationsのオンライン版に掲載されました。