慶應義塾大学大学院理工学研究科の谷口真理(博士2年・助教(有期))と慶應義塾基礎科学・基礎工学インスティテュート(KiPAS)および同大学理工学部の安藤和也教授(KiPAS主任研究員)らは、結晶中を伝わる音波(表面弾性波)によって「軌道流」を生成する2つの新現象「音響軌道ホール効果」と「音響軌道ポンピング」の観測に初めて成功しました。
電子は電荷・スピン・軌道という3つの基本的性質をもち、電荷とスピンの流れはそれぞれ「電流」と「スピン流」と呼ばれています。近年は、スピン流に基づく「スピントロニクス」が電子技術に新たな展開を生み出してきました。さらに最近は、電流・スピン流に対応する「軌道流」を生成することが可能となり、これによる新しい物理現象の探索が急速に拡大しています。電流やスピン流のように物質中の軌道流を自在に操るためには、物質を構成する結晶格子との相互作用の理解が求められますが、これまで格子運動と軌道流の関係は明らかではありませんでした。
今回の研究では、表面弾性波と呼ばれる格子の運動から軌道流が生成されることを実験的に明らかにしました。本研究成果は、格子運動と軌道流を融合した新たな電子技術を切り拓くための基盤となることが期待されます。
本研究成果は8月29日(英国時間10時00分)に英国科学誌『Nature Communications』オンライン版に掲載されました。