慶應義塾大学医学部皮膚科学教室の野村彩乃助教、川崎洋専任講師、天谷雅行教授と、理化学研究所生命医科学研究センター(IMS)の川上英良チームディレクター(医療データ数理推論特別チーム)、古関明彦チームディレクター(免疫器官形成研究チーム)らの共同研究グループは、アトピー性皮膚炎の症状や治療への反応を、皮膚で働いている遺伝子の状態から読み取ることに成功しました。
今回の研究の最大の特徴は、1mmというごく小さな皮膚組織を使って、皮膚の奥深くにある細胞の遺伝子の働きを詳細に調べた点です。皮膚の遺伝子の働きに着目したことによって、血液検査では捉えきれない、皮膚の現場で実際に起きている免疫反応の全体像を浮かび上がらせることができました。研究グループは、156人のアトピー性皮膚炎患者から採取した951の皮膚サンプルを用い、横断的(個人の症状や体質の違いを比較)、および縦断的(最新治療薬デュピルマブによる効果を6か月間追跡)解析を行いました。その結果、「2型炎症」や「17型炎症」など異なる免疫反応が皮膚で起きていることが分かり、それぞれに特有の「遺伝子の働きのサイン(バイオマーカー)」を見つけることができました。さらにこうしたサインの違いが、治療に対する反応性と密接に関係していることも明らかになりました。これにより、将来的には患者一人ひとりに最適な治療法を選ぶ「個別化医療」の実現が期待されます。
本研究成果は、2025年6月2日(英国時間)に、英科学誌Nature Communicationsオンライン版に掲載されました。