慶應義塾大学大学院理工学研究科の時田実和(修士2年)、井上朋也助教(有期)(研究当時)、同大学理工学部化学科の中嶋敦教授らの研究グループは、金(Au)原子の数を1個単位で精密に制御した金ナノクラスターを用い、蒸着した固体表面に光照射することによる光電子放出過程を詳細に解析することで、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)の発現に必要な最小単位が21原子であることを明らかにしました。
プラズモン現象は、金属の中の自由電子が光などの電磁場によって励起されて電子集団として振動する現象を指します。LSPRは、太陽電池や光センシング、ナノ光回路といったフォトニックデバイスの性能向上に貢献すると期待されています。しかし、LSPRが原子スケールでどのように発現するか、すなわちその「最小単位」が何かという根本的な問いは、プラズモニクス研究において長らく未解明のままでした。以前、同研究グループは銀ナノクラスターにおいて9原子からLSPRが発現することを報告しており、元素や電子構造によってプラズモンの発現条件が大きく異なる可能性を示唆していました。
本研究では、独自に開発した高強度の金属クラスターイオン源により、構成原子数を精密に峻別した金ナノクラスターを固体表面に蒸着し、2光子光電子分光法によって光応答と電子放出を高精度に解析しました。その結果、金ナノクラスターでは21原子以上で初めてLSPR応答が観測されることを突き止めました。
本成果は、元素ごとのプラズモン発現の起源と特性を理解する上で極めて重要なマイルストーンとなるものであり、太陽電池における光電変換過程の増強や、高速通信に期待されるプラズモニック光回路などのナノデバイスの開発において、有効な基盤技術になることが期待されます。本研究成果は、2025年6月16日(米国時間)にアメリカ化学会の学術誌「ACS Photonics」で公開されました。