ホヤの幼生は岩などに固着したあと、数十分経過してから変態を開始し、幼生から成体へと変化します。この時ホヤは、固着から変態開始までの時間を、細胞内の情報伝達を担う環状アデノシン-リン酸(cAMP)という物質の蓄積によって計っていることを明らかにしました。
ホヤは、オタマジャクシ型で活発に遊泳する幼生から、固着性で動かない成体へと変態します。ホヤの変態は幼生が岩などに固着することが引き金となって開始されますが、固着してから数十分経過してから変態を開始することが分かっています。これは固着が強固であることを保証する仕組みだと考えられていますが、ホヤ幼生がこれに必要な時間を計る仕組みは分かっていませんでした。
本研究では、ホヤの変態が、細胞内の情報伝達を担う環状アデノシン-リン酸(cAMP)という化学物質の蓄積により開始され、固着から変態開始までの時間は、このcAMPが十分量蓄積するのに必要な時間であることを明らかにしました。また、cAMPは固着後速やかに蓄積するのではなく、いったんその量が低下し、次いで上昇に転じるという複雑な仕組みが働くことも分かりました。これにより、固着してすぐには変態を開始せず、確実に時間を計っていると考えられます。
生物が時間を計ることは、適切なタイミングで生命現象を引き起こすために必要不可欠ですが、その仕組みは解明されていないものも多くあります。本研究は、他の生物での時間測定の仕組みを推察する上でのヒントとなるとともに、生命現象の時期を操作して養殖法を改良したり、海中での生物の固着を防除したりする技術の開発に役立つと期待されます。