慶應義塾大学再生医療リサーチセンター・岡野栄之センター長/教授(藤田医科大学精神・神経病態解明センター神経再生・創薬研究部門・客員教授)、慶應義塾大学殿町先端研究教育連携スクエアの斉藤陽一特任助教、および藤田医科大学精神・神経病態解明センター神経再生・創薬研究部門・石川充講師(研究当時:慶應義塾大学医学部生理学教室・特任講師)らのグループは、血液細胞に特定の遺伝子群を導入することで、シャーレ内で神経細胞に転換させる新しい技術を開発しました。本研究は、神経分化に関わるbHLH型の転写因子NEUROD1とiPS細胞の樹立で利用される4遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYC)を末梢血T細胞に導入する、部分的リプログラミングという手法を用いたものです。この結果、約20日という短期間でグルタミン酸作動性神経細胞の産生が可能になりました。
これまで知られている直接的な神経細胞誘導法は、皮膚線維芽細胞を使用する方法が主であり、細胞採取のための皮膚の切開と縫合が必要でした。しかし今回の方法は、より身体への影響が少ない採血のみで細胞材料を得られることから、ドナーに対する負担を大幅に軽減できるようになりました。この技術は、iPS細胞のように体細胞を完全に初期化させる工程を経ることなく神経疾患の病態を再現できる細胞モデルを作製できるため、再生医療にもつながる細胞を人工的に作り出す新たな方法として期待されます。
本研究成果は2025年4月28日(米国東部時間)に、米国科学アカデミー(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America [PNAS])のオンライン版に掲載されました。