北海道大学病院 下埜城嗣元医員 (当時)と北海道大学病院 中川雅夫講師らの研究グループは、国立研究開発法人国立がん研究センター研究所 分子腫瘍学分野 伊藤勇太(任意研修生)、慶應義塾大学医学部内科学教室(血液) 片岡圭亮教授(国立がん研究センター研究所 分子腫瘍学分野 分野長を兼任)、久留米大学医学部病理学講座 河本啓介氏、三好寛明教授、大島孝一教授らと共同で、予後不良な悪性リンパ腫のひとつである節性T濾胞ヘルパー細胞リンパ腫(nTFHL)の遺伝子異常の全体像と、それに基づいた分子分類の臨床的有用性を明らかにしました。
悪性リンパ腫は、血液を構成するリンパ球に由来する血液がんの一種です。本研究の対象であるnTFHLは、その中でもT細胞に由来する末梢性T細胞リンパ腫に分類され、病理学的にはPD1やICOS等のT濾胞ヘルパー(TFH)関連マーカーを発現し、遺伝学的にはRHOA G17VやTET2、IDH2等のエピゲノム修飾因子やT細胞受容体シグナル経路を活性化する遺伝子変異を特徴としています。nTFHLは一般的には予後不良でありながら、一部には緩徐に進行する症例も存在するなど、臨床的に不均一な疾患であり、より鋭敏な予後予測因子の探索やそれに基づいた適切な治療選択が必要です。
本研究では、これまでに報告されたnTFHLを対象とした遺伝子解析研究としては最大の173例を対象に、T/NK細胞腫瘍における242個のドライバー遺伝子を対象とした標的シーケンスを用いて変異とコピー数異常の解析を行いました。その結果、4個の新規遺伝子(TET3、HLA-C、KLF2、NRAS)を含む36個のドライバー遺伝子を同定し、これらの遺伝子異常の多様性がnTFHLの臨床的な不均一性と関連していることが示唆されました。
これらの解析結果に基づき、TET2、RHOA、IDH2、TP53、CDKN2A異常に着目して臨床像や生命予後の異なる4つの分子亜型からなる分子分類を作成しました。特に、TP53とCDKN2A異常を有する亜型(AC53)は極めて予後不良である一方で、これらのいずれの異常も認めない亜型(NSD)は予後が良好でした。これらの結果に基づいて、①TP53またはCDKN2Aの異常、②いずれかのドライバー異常、③臨床因子である国際予後指標(IPI)の高リスク、の3項目により構成される臨床遺伝学的予後予測モデル「mTFHL-PI」を開発しnTFHLの予後が層別化されることを示しました。
本研究の成果により、nTFHLにおける遺伝子異常の全体像が明らかとなり、その情報が予後層別化に有用であることが示され、今後の個別化医療や新規治療開発の基盤となることが期待されます。
なお、本研究成果は、2025年5月2日公開の英科学誌「Leukemia」誌にオンライン掲載されました。