新型コロナウイルス感染症後に一部の患者で睡眠障害や倦怠感、体の痛み、めまい、集中力の低下、記憶障害、息切れなどのいわゆる「コロナ後遺症 (long COVID)」症状が、今までなかったにもかかわらず、感染後から長期間続くことが知られています。
慶應義塾大学医学部麻酔学教室の若泉謙太専任講師らの研究グループは、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学専攻公衆衛生学分野の田淵貴大准教授との共同研究で、大規模疫学調査のデータから、long COVID症状が必ずしも新型コロナウイルス感染症に特有の症状ではないことを明らかにしました。
新型コロナウイルス感染後に一部の患者で様々な身体症状が続くことが知られており、「コロナ後遺症(long COVID)」とも呼ばれています。その実態は不明な点が多いのが現状です。一方でlong COVIDに類似した症状(long COVID様症状)は、新型コロナ感染歴がなく、3か月以上にわたって痛みが続く慢性痛患者にも見られることが分かっています。しかし、これまでに慢性痛患者において、どのようなlong COVID様症状がどの程度見られるのかを網羅的に検討した研究は存在しませんでした。そこで本研究では、慢性痛患者におけるlong COVID様症状の有無や傾向を明らかにすることを目的として、調査を行いました。その結果、慢性痛がある人は、ない人と比べて中枢神経症状(記憶障害、集中力の低下など)や呼吸器症状(咳、息切れなど)、消化器症状(胃腸の不調)を含む様々なlong COVID様症状を多く持つことが明らかとなりました。さらに注目すべき点として、慢性痛を抱える人は、コロナ感染歴のある人と比べても、これらの症状を多く持つことも明らかとなりました。つまり、慢性痛を有する人は、新型コロナウイルスに感染していない場合でも、慢性痛のない人に比べて多くのlong COVID様症状を抱えており、その症状の数は実際のlong COVID患者を上回ることが示されました。慢性痛患者では、中枢神経系の機能異常が痛みの長期化だけでなく、多彩な身体症状を引き起こすことが報告されています。新型コロナウイルス感染においても、一部の人で同様の中枢神経系の機能異常が誘発される結果、いわゆる「コロナ後遺症(long COVID)」と呼ばれる症状を引き起こしている可能性が今回の調査結果から伺われました。現在もなお、新型コロナウイルス感染後の後遺症に苦しむ患者は少なくありません。本研究の成果により、後遺症の病態解明が進み、治療法の開発や改善につながることが期待されます。この研究成果は2025年5月6日に疼痛医学の国際学会誌であるPAINオンライン版に掲載されました。