扁形動物のプラナリアは、環境の変化に応じて分裂・再生による無性生殖と、生殖細胞を形成して他個体と交配する有性生殖を切り替えます。プラナリアは無性個体に有性個体をエサとして与えることで無性状態から有性状態に誘導(有性化)できることが以前から知られており、このことは有性個体に「有性化因子」と呼ばれる生理活性物質が含まれていることを意味しています。研究チームは有性化因子を手がかりにプラナリアの生殖様式転換の仕組みの解明に取り組みました。
本研究では、有性化因子の刺激で実験的に無性状態から有性状態への転換をうながすことができるプラナリアであるリュウキュウナミウズムシ#1(図1)を用いて、有性化過程中の個体からRNAを抽出して、RNAシークエシング#2を行い、遺伝子ライブラリを構築しました。そして,トランスクリプトーム解析#3とRNAi法による遺伝子ノックダウン解析#4により、4つの有性化必須遺伝子を同定することに成功しました。これらの有性化必須遺伝子がすべて精巣分化に関与していたことから、プラナリアの無性生殖から有性生殖への転換では、精巣分化が必須であると結論づけられました。今後、本研究の成果が手がかりとなり、多くの動物でみられる生殖様式転換現象の共通原理の解明に大きく貢献することが期待されます。プラナリアと同じ扁形動物に属する寄生性の吸虫類の多くも、陸生の巻貝を中間宿主、哺乳類を終宿主として無性世代と有性世代を転換しています。今後、吸虫類でプラナリアの有性化必須遺伝子に相当する遺伝子を明らかにすることで、吸虫類の有性化(性成熟)のメカニズムを解明することができます。そうなれば、顧みられない熱帯病とされる世界的な吸虫類による健康被害の軽減などにつながるかもしれません。
本研究成果は、2025年11月18日に国際科学誌「PLOS Genetics」に掲載されました。