慶應義塾大学医学部整形外科学教室の名越慈人専任講師、同再生医療リサーチセンターの岡野栄之センター長/教授、田中朋陽助教、森本悟副センター長/特任准教授らを中心とした研究グループは、脊髄損傷において髄液細胞外小胞に含まれるmiR-9-3pが神経保護的反応を示し、さらに脊髄損傷の自然回復の予測に有用な新規バイオマーカーとなり得ることを、ラットとヒト髄液サンプル解析により世界で初めて明らかにしました。脊髄損傷においては世界的にバイオマーカーの開発が進められているものの、受傷後早期の段階で自然回復の可否を予測できるものは未だに存在していません。こうした現状を踏まえ、本研究グループは髄液細胞外小胞の網羅的解析を行い、その結果、ラットにおいて脊髄損傷モデルにおける髄液細胞外小胞でmiR-9-3pが高値に発現し、さらにヒト髄液サンプルにおいてmiR-9-3pが脊髄損傷の自然回復群に比べて、非自然回復群で高値を示し予後予測に有用であることを示しました。また、本研究により、急性期脊髄損傷ラットモデルでmiR-9-3pが損傷部位では減少する一方で脳内では増加し、特にアストロサイトに強く発現していることを発見し、脳内アストロサイトから脊髄損傷による代償反応として、miR-9-3pが能動的に分泌されている可能性を示しました。加えて、ヒト由来運動ニューロンを用いた解析により、miR-9-3pがエネルギー代謝抑制やシナプス可塑性・ストレス応答に関わる遺伝子発現を誘導し、神経保護的な適応反応に関与することを明らかにしました。今回の研究成果により、脊髄損傷の急性期における中枢神経系内の細胞間コミュニケーション機構の一端が解明されるとともに、髄液細胞外小胞由来miR-9-3pが自然回復予測のための新規バイオマーカーおよび治療標的となる可能性が示されました。今後は本研究成果を基に、回復予測・治療効果判定を目的とした臨床応用や分子治療の開発が期待されます。本研究成果は、2025年10月27日(日本時間18時)にCommunications Biology(オンライン版)に掲載されました。