慶應義塾大学医学部皮膚科学教室の天谷雅行教授(理化学研究所生命医科学研究センターセンター長)、高橋勇人准教授、向井美穂共同研究員、理化学研究所生命医科学研究センターの入來景悟上級研究員らの研究グループは、坂口志文特任教授(大阪大学)、三上統久准教授(大阪大学、レグセル株式会社)らとの共同研究により、機能的に安定化させた誘導型制御性T細胞(induced regulatory T cell; iTreg)が尋常性天疱瘡(じんじょうせいてんぽうそう)モデルマウスにおいて抗原特異的に症状を抑制することを実証しました。また尋常性天疱瘡患者)の末梢血からも他の細胞の活性化を抑える抑制活性を持った安定化iTregを作製することに成功しました。
本研究では、大阪大学で開発された安定化iTregの培養方法を用いて、尋常性天疱瘡に応用しました。尋常性天疱瘡は皮膚を構成する角化細胞の接着に重要なデスモグレイン3(Dsg3)というタンパクに対して自己抗体が産生し、全身に水ぶくれができる難治性の自己免疫疾患です。今回、Dsg3特異的な安定化iTregを作製し、天疱瘡モデルマウスに投与することによりその治療効果を実証しました。その結果、投与された安定化iTregにより、病気を起こす抗体価を下げ、疾患の重症度を表す疾患スコアも有意に減少させ、抗原特異的に病気を抑制することが示されました。また、患者の末梢血から安定化iTregを効率的に誘導する条件を最適化した上で試験管内での抑制効果を確認し、臨床応用に向けた基盤を築きました。本治療法では、「病気を起こすT細胞」から「病気を抑制する安定化iTreg」に、遺伝子を改変することなく変換し、その安定化iTregを患者にもどすことで、これまで難治とされてきた自己免疫疾患に対して、より効果的かつ副作用の少ない治療法となることが期待されます。
本研究成果は2025年10月22日(米国東部標準時)に国際学術雑誌Science Translational Medicineのオンライン版に掲載されました。