慶應義塾大学再生医療リサーチセンターの岡野 栄之 センター長/教授(研究当時:慶應義塾大学医学部生理学教室・教授)、慶應義塾大学医学部5年生の加藤 玖里純、慶應義塾大学殿町先端研究教育連携スクエアの森本 悟 特任准教授(研究当時:慶應義塾大学医学部生理学教室・専任講師)ならびに公益財団法人がん研究会がんプレシジョン医療研究センターの植田 幸嗣 プロジェクトリーダーらの共同研究グループは、ロピニロール塩酸塩(ROPI)の第Ⅰ/Ⅱa相医師主導治験(ROPALS試験)に参加した筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者由来の血液ならびに脳脊髄液(CSF)に含まれる細胞外小胞(EVs)におけるタンパク質組成の経時的かつ網羅的定量を行い、体液由来EVsのタンパク質組成が孤発性ALS(SALS)患者において健常者と異なること、また、その変化が経時的なSALS病態進行においても同様に起こること、ROPI投与によってこの変化が抑制されることを見出しました。加えて、人工多能性幹細胞(iPSC)由来アストロサイト(iPast)を用いた研究により、ROPIがD2R-CRYAB経路という神経炎症を抑制する経路を活性化している可能性が示唆されました。さらに、機械学習モデルを用いたバイオマーカー探索によって、予後予測ならびに診断において有用と推定されるタンパク質群をそれぞれ同定しました。
EVsは、ほとんどの細胞種から血液やCSFなどの体液中に分泌され、タンパク質や核酸などを内包していることから、細胞間の生体物質伝達に関わっているとされており、悪性腫瘍やSALSなどの神経変性疾患において疾患への寄与やバイオマーカーとしての有用性が推定されています。しかし、SALSにおける経時的かつ網羅的なEVタンパク質組成や、予後予測において有用なバイオマーカーはよく分かっていませんでした。また、ROPALS試験にて病態進行抑制効果が示唆されたROPIによるEVタンパク質組成変化は不明でした。今回、共同研究グループは、ROPALS試験のリバーストランスレーショナル研究(reverse translational research, rTR)として本研究を行い、経時的な患者由来体液を用いた網羅的なEVタンパク質組成を調べ、これらを明らかにしました。
この研究成果は、SALS病態とROPIによる治療メカニズムの一端を明らかにし、SALSの疾患理解や治療戦略において重要な知見であると考えます。本研究成果は、2024年7月12日午後7時(日本時間)に、日本炎症・再生医学会(Japanese Society of Inflammation and Regeneration [JSIR])の公式国際誌Inflammation and Regeneration 誌に掲載されました。