慶應義塾大学理工学部化学科の河内卓彌准教授、畑中美穂准教授らは、有機反応における最難関過程が、これまで最難関と考えられていた結合の組み換えが起こる過程ではなく、従来は容易と考えられていた回転の過程になりうることを発見しました。
有機化合物は、日常生活において広く重要な役割を果たしており、多様な有機反応を駆使して結合形成と切断を繰り返すことで合成され、結合形成や結合切断は、新しい分子を作るための鍵となるプロセスです。各有機反応は多くの段階を経て進行しており、その段階には結合の形成や切断を伴うものもあれば、結合が回転するのみというものも存在します。また、有機反応では一般に結合形成・切断過程が最も重要と考えられています。しかしながら、本研究では、DFT計算という計算シミュレーションと実験を通した検証により、結合の形成や切断が起こる有機反応における最難関過程が、結合形成・切断を伴わない過程となりうることを示すことに成功しました。今回検証を行った反応では、結合形成と切断が繰り返し起こる一方、その進行を最も困難としている過程が、従来は容易と考えられていた結合回転であることがDFT計算により示されました。また、その回転の困難さのために、定説とは異なるメカニズムを経て反応が進行することも示唆され、実験的にもこれを支持する結果が得られました。本研究は、計算シミュレーションと実験を組み合わせた検証が、従来困難であった領域における有機化学の根本的理解の深化につながることを示すものであり、有機化学のさらなる発展につながることが期待されます。
本研究の成果は、2024年3月25日(現地時間)に、『 The Journal of Organic Chemistry 』(アメリカ化学会発行)のオンライン版で公開されました。また、同誌の表紙(Supplementary Cover)に採択されました。