慶應義塾大学大学院理工学研究科の寺坂一也(研究当時、修士課程2年)、市川琢己(修士課程2年)、慶應義塾基礎科学・基盤工学インスティテュート(KiPAS)の渋田昌弘研究員(研究当時。現・大阪公立大学准教授)、慶應義塾大学理工学部の畑中美穂准教授、中嶋敦教授らは、タングステン金属原子をケイ素ケージで内包したナノ構造体が、球形構造との協奏によってアルカリ土類金属原子に類似した超原子であることの解明に成功しました。超原子のライブラリーの多様化を実現し、固体表面上にアルカリ土類金属原子様超原子をはじめて固定化しました。
新規ナノ構造体による機能基板の開発は、化学変換過程やエネルギー変換過程の一層の効率化を通して、エネルギーや環境の問題を克服するために極めて重要です。原子が数個から数十個集合したナノ構造体の中には、原子と同じような電子状態をとることから、ナノクラスター超原子と呼ばれるナノ構造体があり、異なる元素を内包させるとその反応性が大きく変化することが知られていました。しかし、原子数、組成を単一にしたナノクラスター超原子の生成が難しいことに加えて、基板表面では、表面の特性や構造の乱れのために、ナノクラスター超原子が構造変形するなど、電荷状態の制御が容易でなく、また超原子の種類が1電子のやり取りに限られるという課題がありました。
本研究グループは、原子数や組成を完全に制御した純粋な超原子の大量に合成し、非破壊かつ安定的に基板に固定化する技術を確立しました。さらに、中心金属原子を置換した超原子を基礎としたナノ構造体を活用することで、中心金属原子が変化した際に、その幾何構造が協奏して、2電子を供与して基板上で安定化することも解明しました。これらの結果は、超原子の多様化によって次世代の化学変換、エネルギー変換を実現する複合ナノ構造体の機能創成につながることが期待されます。
本研究成果は、2024年3月1日(米国時間)にアメリカ化学会の学術誌『 Journal of the American Chemical Society 』で公開されました。