慶應義塾大学医学部解剖学教室の久保田義顕教授、同外科学教室(一般・消化器)、同内科学教室(循環器)、同医化学教室、同先端医科学研究所、浜松医科大学、英国オックスフォード大学らの共同研究グループは、がん内部の血管でのみ利用されている構造維持因子として、神経ガイダンス因子として知られてきたFLRT2を見出し、FLRT2の発現量がヒト大腸がんの予後と逆相関すること、血管でFLRT2を欠損したマウスでは、がんの転移が抑えられることを明らかにしました。
がんの進行、転移には、血管ががん内部へ成長することが原因とされます。そのため、血管の成長をとめる薬剤(VEGF阻害剤など)が広く臨床の現場では用いられていますが、がんの転移に関しては抑える効果が不十分なケースもみられ、がん転移をより効率的に抑える新たな分子標的が模索されてきました。
本研究では、FLRT2がヒト大腸がん、特に進行がんの血管で強く発現し、その発現量は予後と逆相関していることを見出しました。次に血管特異的にFLRT2遺伝子を欠損したマウスの皮膚にがん細胞を移植したところ、隙間の多い血管(がん転移の出入り口となる)が著減し、肺や肝臓への転移が大幅に減少することを見出しました。さらには、この血管の変化(隙間の多い血管が減少)によりがん深部まで血流を運ぶことができるようになり、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体の効果が顕著に増強されることもわかりました。
本研究成果は、血管ががん細胞を転移させるユニークな仕組みを解明したものであり、実用化の観点からは、従来の血管の成長をとめる薬剤では不十分であった、がん転移を効率的に抑える画期的な分子標的薬の開発につながることが期待されます。さらには、免疫チェックポイント阻害剤の効果を最大限に発揮させるための、「地ならし」的な併用療法への応用も期待されます。
本研究成果は2022年2月1日(米国東部時間)の『The Journal of Clinical Investigation』オンライン版に掲載されました。