慶應義塾大学医学部医化学教室の加部泰明准教授、小池一康(大学院医学研究科博士課程2年)、および末松誠教授らの研究グループは、多くの漢方薬に含まれる甘草の主成分グリチルリチン(GL)およびその誘導体がヘム結合性膜タンパク質PGRMC1に結合し、抗がん剤の効果を強力に高めることを発見しました。
同グループはこれまでにPGRMC1がさまざまな固形がんに高発現しており、がん細胞の増殖や薬剤耐性獲得に極めて重要な役割を果たしていることを報告してきました。PGRMC1は、がん治療の標的タンパク質として注目されていますが、PGRMC1の機能を阻害するような物質は未発見でした。本研究では、GLがPGRMC1に結合する分子構造を解明しました。またGLが、上皮成長因子EGFシグナルの活性化を抑制するとともにLow denstity lipoprotein(LDL)コレステロールの細胞核内への取り込みを抑制することを示しました。それだけでなく、マウスがん移植モデルにおいてもがん細胞増殖を抑えることも明らかにしました。さらに、GLの誘導体であるグルコグリチルリチンは、より強力にPGRMC1の機能を阻害してがん細胞の増殖を抑えることを発見しました。
これらの成果よりGL誘導体が、がん細胞に多く存在するPGRMC1の機能を制御して抗がん剤の効果を顕著に高めることを示しており、新規のがん治療薬として応用されることが期待されます。
本研究成果は、2021年6月30日(英国時間)に科学誌『Cancers』のオンライン速報版で公開されました。