慶應義塾大学文学部心理学研究室の梅田聡教授、キリンホールディングス株式会社R&D本部キリン中央研究所阿野泰久主任研究員らの研究グループは、健常中高年を対象としたランダム化比較試験で、乳由来の認知機能改善ペプチドであるβラクトリンが、集中を要する認知課題中の脳波測定により、前頭葉から頭頂葉における領域の神経活動を高めることを確認しました。βラクトリンによる認知機能改善の脳神経基盤の解明につながる研究成果です。
これまでの日本人対象の疫学調査によると、牛乳や乳製品の摂取は認知症のリスクを低減するとされています。近年の研究で、カマンベールチーズといった発酵乳製品に多く含まれる認知機能改善ペプチドとしてβラクトリンが発見され、本研究グループはこれまで、βラクトリンがヒトの記憶機能および注意機能を改善することをランダム化比較試験で報告してきました。しかしながら、βラクトリンがヒトの脳神経活動へ及ぼす影響についての検証はなされていませんでした。
そこで本研究では、健常中高年対象のランダム化比較試験を実施し、βラクトリン摂取による脳神経活動への作用を検証するため、64チャネルの脳波計を用いて事象関連電位を測定しました。その結果、βラクトリン摂取群では、プラセボ群と比較して、前頭葉から頭頂葉にかけた領域の電極で、聴覚提示課題中の集中力の指標ともされる事象関連電位P300の振幅が、統計学的に有意に増大することが確認されました。
今回の成果により、超高齢社会に伴う脳の健康に関する社会課題解決に向けて、科学エビデンスに基づいた食習慣を通じたソリューションの開発が期待されます。
本研究成果は、2021年5月18日(グリニッジ標準時)に国際学術誌『Journal of Alzheimer’s Disease』(オンライン)に掲載されました。