慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授、中村真理准訪問研究員、同総合医科学研究センターの塩澤誠司特任講師らを中心とする研究グループは、家族性の前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration、以下、FTLD)の患者よりiPS細胞を樹立し、神経細胞へと分化させることで、その病態メカニズムの一端を解明しました。
本研究では、家族性前頭側頭葉変性症の原因遺伝子の一つである微小管結合蛋白質タウ(以下、MAPT)遺伝子のR406Wという変異(以下、タウR406W変異)に注目しました。この変異を持つ場合にはアルツハイマー病(認知症)によく似た症状が現れます。
比較対象として、ゲノム編集技術によってタウR406W遺伝子変異を正常型に修正した細胞株及びタウR406W変異を両側の遺伝子にもつ細胞株を樹立しました。さらにそれぞれのiPS細胞から、脳オルガノイドと呼ばれる脳に類似した組織(神経細胞)を作製し、これらを比較することにより、タウR406W変異による神経細胞の異常を検証しました。
その結果、タウR406W変異を持つiPS細胞由来神経細胞では、タウタンパク質のリン酸化や局在に異常があり、神経軸索の変性などが認められました。さらに、これらの表現型は微小管安定化剤によって抑制されることが明らかになりました。タウタンパク質は、アルツハイマー病をはじめとするさまざまな神経変性疾患に関与することが知られており、今回発見したメカニズムは、これらの異常を抑えるのに有効な微小管安定化剤をはじめとした新しい治療薬の開発につながる新たな病態モデルになると期待されます。
本研究成果は2019年9月19日(米国東部時間)に、国際幹細胞学会(ISSCR)の公式ジャーナルである『Stem Cell Reports』のオンライン版に掲載されました。
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